ラオスが豊かになるためにできること

今日は霞ヶ関の財務省(元大蔵省)に行ってきました。ラオスの人々の貧困を削減するためとして日本政府が大型発電ダムの建設に融資することを決めたことを受けて、「また生態系を壊すことになる」「現地の人たちが本当に豊かになるのか」と懸念を示して来た日本のNGOが、政府の決定の内容を聞きにいくという会合があったのです。

この問題は1997年から8年間も話し合われて来た息の最も長い案件と言われていて、NGOや現地住民もずっと動向を見守り、環境は地域社会に配慮した計画変更ないしは差し止めを要求してきたわけですから、政府が融資を決定したというニュースは「予測はしていたけれど、非常に残念でがっかり。融資を決定した世界銀行などの国際理事会で日本政府がどのような意見をし、なぜ融資に賛成したのかをじっくり聞かせて欲しい」ということなわけです。

ラオスのナムトゥン2ダムは、ラオスの中部に建設されることがつい最近決まった水力発電ダムで、総事業費は13億ドル、ラオスのGDPの70%にもなる巨大事業です。世界銀行やアジア開発銀行といった国際開発金融機関(複数の国家が出資、設立した国際金融機関)などが合わせて8億ドル以上の融資を行ないます。(ラオス・ナムトゥン2ダムの詳細はこちら)ちなみに日本政府はアメリカに次いで世界銀行の第二の出資国です。これ一応、念を押しておきますと、全部みなさんの税金ですからねー。

私たちの税金を政府が使って、それでラオス500万人の生活が確実に豊かになるのであれば、生態系を多少壊してもダムを建設する必要があるという議論も成り立つかもしれません。世界銀行(東京事務所)のトップページには「貧困のない世界の実現、それが私たちの使命です」とありますから、私たちの税金がラオス(や世界各地)の貧困削減のために使われるといのであれば納得できます。ただこれだけお金を使ってダムを作ったって地域住民が豊かになるという確証がないという見方もあります。現に開発援助が適切に使われず、ODA(政府開発援助) の20%は汚職に消えていくという統計もあり、「利権にまみれた不透明な構造で多額の資金が非効率に浪費されている」「相手国住民からは迷惑がられこそすれ感謝されない」「現地の生態系を破壊している」という実態は、近年「顔の見える援助」や「環境に配慮する計画」を心がけるようになってきたとはいえ、依然として深刻な問題なのです。

ラオスのダム建設に対するNGOの主張はこうです。

1)タイの電力需要に関する疑問ー「ダムで発電した電気は隣国タイに売って外貨を獲得し、ラオスの保険や教育にあてる」というのが計画だが、タイでは既に余剰電力がある。本当に電力が売れるのか?
2)自然環境への影響ー東洋のガラパゴスと呼ばれる地域が水没することでアジア象などの絶滅が危惧されている希少動物の生育地が破壊される
3)ガバナンスの問題ーたとえ電力が売れて利益が出たとしてもそれを貧困削減につながる分野に配分できるだけ、ラオス政府のガバナンスがしっかりしていない。アフリカのチャドでの汚職でもしかり。
4)生計手段への影響ー約6000人が移転をしいられる。また十数万人が、漁業被害などの影響を受ける
5)開発プロセスの問題ーすでにダム計画を前提として大規模な森林伐採が行なわれており、伐採で失った生計の回復のためにダムの補償に期待せざるを得ないという事実がある

財務省との会合の前に集まったNGOの方たち(メコンウォッチJACSES)にこういうことを教わった私は「全部もっともな意見だなぁ」と思い、よけい「それなのになぜ日本政府は融資を決定したのか財務省の方がどんなことを言うのか」ちょっと緊張して会合に臨みました。

財務省側は入れ替わりで4、5人の方がいましたが、主に対応したのは石井参事官というバリバリの女性。会合は2時間でしたが、終わった後の感想は「なるほど、財務省の言っていることもわかる。政府だって貧困削減に取り組もうとしている。それにしても開発援助って難しい問題だ….」と言う事です。

石井財務官はこう言います。「500万人の貧困削減は大きなチャレンジです。いろいろな意味でリスクが高いのは承知していますが、それをやっていくのが国際開発機構のミッションです。しかもラオス政府自体がこの開発をやりたい、この開発で得たお金で豊かになりたいと主張しています。ラオスのようなガバナンスが確立されていない政府でこういう難しいプロジェクトが成功するかどうかという懸念ありますが、能力の低い国に対して融資をしない、というわけにはいきません。この計画はラオスのガバナンスを変えていく大きなチャンスにもなります。これから建設が進められる5年間、私たちがしっかりウォッチして、プロジェクトがきちっと実現するようにしていきましょう。そのために一緒に頑張っていきましょう。」

かなりの概要ですけれど、石井さんはおおむねこういうことを言っていました。

もちろん、そもそも「こういう開発(のみ)が地域の人々の生活を豊かにするのだろうか?他の方法があるんじゃないの?」という議論もあります。しかし融資が決まってしまった以上、その枠組の中でNGOが考えていたような懸念が絶対に起こらないようにNGOと政府機関が情報交換したりするなど協力体制を築く必要があることも重要だと思いました。

開発援助の問題は、「政府(または企業)vs NGOや先住民などの市民団体」という対立の構図が出来上がってしまっているように思いますが、今日の会合では誠意を持って話してくれた石井参事官に好感を持ったし、ラオスの開発で必要なことは、目的は世界の貧困削減ということを再認識したうえで、お互いの持ち場で出来る最善のことをしっかりやるということではないかと思います。

ラオスに長年住み、現在、開発の分野での政策提言を精力的にしているNGOの代表格、メコン・ウォッチの代表、松本悟さんは「本当にラオスにとってこの開発が良いのか、できるのか疑問」と言う姿勢を最後まで崩しませんでしたが、石井参事官の説明に渋い顔をしながらうなずいていたのは印象的でした。石井参事官が誠実に対応したのは、松本さんを含めNGOの方たちが今までしっかりとした活動をしてきたからであって、お互いの信頼関係がある程度築けているとも感じました。

開発援助の問題はいろいろな立場や思いや欲やシステムが絡んでいてとても複雑な問題です。もちろん私もこういった大型開発には全面的に反対ですが、それぞれの持ち場で「パッション、ミッション、プロフェッショナリズム(石井さん談)」を持って「ラオスが豊かになるためにできること」を真剣に考えて行動していかなくてはならないと思いました。